単純なことをわざわざ難しく言う必要はない
月が同じ面を常に地球に向けていることを
自転と公転が同期していると簡単に言ってしまうが、
そのことが理解の混乱を招いている。
恒星日とか恒星月、太陽日という自転に関する言い方も
分かるようで分かりにくい。
それは、見かけの自転周期と真の自転周期という
単純な言い方をすれば簡単に理解できる。
「自転と公転の同期」とは自転していない状態
"Tidal Locking" means No Rotation
太陽系の全運動量を考えてみて、初めて知ったのは、
月も含めて多くの衛星で自転と(母星回りの)公転周期が同期しているという事実です。
私自身、今まで、そんなことを気にもしなかったので、
専門家以外のほとんどの人は、これほどありふれた現象だということすら知らないでしょう。
自転と公転が同期しているということは、何を意味するだろう?
それは、見かけ上の自転であり、実質的には自転していない。
素直に(論理的に)そう考えた人も少なからずいた。
しかし、それでも自転しているとかたくなに主張(反論)する人が多数派だったようです。
自転していない衛星が惑星に捕捉されたと考えてみよう。
進入した方向が惑星の引力によって変えられるだけで、衛星は1つの方向を向いている。
衛星でなく、ロケットに置き換えてみれば分かりやすい。
ロケットの先端は常に、前進方向を向き続ける。
自転などしていない。
だから、必然的に、公転周期と自転周期が一致する。
という正しい原理から考えれば当然の結果です。
結局、公転と自転が同期した状態のとき、衛星に意思があるとすれば、自分は自転などしていないと思っているだろう。
- 「自転と公転の同期とは、自転していない状態である。」
- 「つまり、自転の角運動量を持たない。」
同期していると言うのは、いわば、ハンマー投と同じです。
ワイヤーの先のボールはもちろん自転していない。
常に同じ面を競技者に向けている。
それと同様に、月は自転しているようで実は自転していないと言うことです。
これは、以下に示すように、自転周期の関係式を見れば、疑問の余地もなくはっきり理解できる。
「見かけの自転周期」と「真の自転周期」 (2012年、日本)(世界初!!)
"Fictitious Rotational Period" and "True Rotational Period"
惑星の自転周期には、
恒星日(sidereal day)と太陽日(solar day)という2つの表わし方があるが、この違いが結構分かりにくい。
従来の説明を読んでも、説明が長いし、何を言っているのか理解に苦しむ。
結論から先に言えば、
- 「恒星日とは見かけの自転周期」
- 「太陽日とは真の自転周期」
惑星の角運動量(自転)を厳密に計算する場合には「真の自転周期」を用いなければならない。
それだけのことです。
このように説明すれば、分かりやすい。
それを式で表わすと以下のようになる。
\[ {\Large \fbox{ $ \displaystyle{ \begin{align} 惑星・衛星の真の自転周期&:\\ T_{rp}=&\frac{2\pi}{\frac{2\pi}{T_{frp}}\mp\frac{2\pi}{T_{op}}}\\ =&\frac{1}{\frac{1}{T_{frp}}\mp\frac{1}{T_{op}}}\\ =&∞(自転していない):ともに順行(逆行)で同期\\ =&\frac{1}{2}T_{frp}:いずれかが逆行で同期 \\ 太陽の真の自転周期: &\\ T_{Srp}=&\frac{1}{\frac{1}{T_{Sfrp}}+\frac{1}{T_{Eop}}}\\ \approx&25.3797995日(25日9時間6分54.679096秒)\\\\ 惑星、衛星の場合は、&観測されるのは地球からの見かけの自転周期である。\\ 符号が負(-):&公転と見かけの自転がともに順行(逆行) \\ 符号が正(+):&公転と見かけの自転のいずれかが逆行 \\ T_{rp}:&惑星・衛星の自転周期(太陽日)、すなわち、真の自転周期\\ T_{frp}:&自転周期(恒星日)、すなわち、見かけの自転周期\\ T_{op}:&公転周期(Orbital\hspace{2pt}Period)\\\\ 太陽の場合は、地球から&観測した見かけの角速度に\\ 地球の公転角速度(見かけ&の値ではない)を加えたものが真の角速度になる。\\ 惑星や衛星のケースとそこ&に違いがある。\\ T_{Srp}:&太陽の真の自転周期(赤道)\\ T_{Sfrp}:&太陽の見かけの自転周期(赤道)(27日6時間36分)\\ T_{Eop}:&地球の公転周期(365.256363004日)\\ \end{align} } $ } } \]
自転周期(恒星日)と公転周期が同期しているときは、
自転していない状態である。
だから、一般的に言って、見かけの自転周期(恒星日)から公転周期を差し引いたものが真の自転周期であり、それが実は太陽日と言うことになる。
実際には、角速度を差し引いてから、周期に変換することになる。
だから、式は上記のような形になる。
一般的に、見かけの自転周期(恒星日)を自転周期として示される。
ほとんどの惑星は、公転周期が自転周期に比べてはるかに長いものが多いので、恒星日と太陽日は大差がない。どっちを表示してもそう言うケースでは問題ないと言える。
惑星では唯一、水星は、公転周期と自転周期がかなり近い値で、この点から言うと、水星は衛星に近い。太陽の第一衛星と言ってもいいくらいだ。
地球の例で言えば、
- 公転周期 365.256363004 日
- 見かけの自転周期(恒星日)23時間 56分 4.0905秒
- 真の自転周期(太陽日) 24時間
結局、一日が24時間ぴったりになっているのは、真の自転周期であると言われれば、素直に理解できる。
たとえば、水星は、
- 公転周期 87日 23.3時間
- 見かけの自転周期(恒星日) 58日 15.5088時間
- 真の自転周期(太陽日) 175.9 日
金星は、
- 公転周期 224.701日
- 見かけの自転周期(恒星日) 243.0187 日(逆行)
- 真の自転周期(太陽日) 116.751 日
水星のケースで言えば、公転周期よりも高速な自転をしているように勘違いしてしまうが、実際には、176日というゆっくりとした自転をしている。
こういうケースでは、角運動量(自転)を計算する時に、十分注意しなければいけない。
水星と金星は、公転周期と見かけの自転周期が近いと言う特徴がある。
太陽系の中では、この2つの惑星だけの特徴です。
しかも、上記の式で、符号が正と負のケースが、隣り合う2つの惑星で起きたことは、偶然とは言え、実に興味深い。こんな格好の実例を示してくれたことに感謝しなければいけない。
金星は、自転周期だけ逆行(時計回り)しているので、上記の式から分かるように、見かけの自転周期の約半分の値が真の自転周期となる。つまり、見かけの自転周期の約2倍の速さで自転していることになる。
それとは逆に、水星は、公転と見かけの自転周期が近づけば近づくほど、真の自転周期が長くなるケースです。
ただし、太陽系の中で、水星と金星だけがこのような違いがあるが、結局、全運動量にはほとんど影響しない。それは、線運動量の方がはるかに大きいからです。
衛星の場合も基本的には同じです。
太陽の場合も、この考え方を応用できる。
ただし、基準となる地球の公転周期が見かけの値ではないという点が異なるため、符号の意味が異なる。
太陽の自転周期は、
- 見かけの値27日6時間36分(赤道)
- 真の値25.38日(赤道)
これが曖昧に示されることが多いので混乱する。
Wikiでさえ見かけの値しか示されていない。
たとえば、黒点が横切る時間を単純に2倍したものは、見かけの値です。
恒星日、太陽日という言い方の功罪
恒星日、太陽日という言い方は惑星(特に、地球)から見たものだが、
衛星も基本的にも同じです。
衛星の場合は、
恒星日、太陽日という言い方もおかしい。
惑星日、母星日とでも言えばいいだろうか?
ただし、そんな分かりにくい言葉をわざわざ使う必要もないし、使うべきではない。
太陽も恒星なので、恒星日と太陽日という名称自体が曖昧で区別できない。
この名称だけ聞いて違いを理解できる人間は一人もいないだろう。
名称そのものが不適切なため、いたって簡単な内容をわざと難しく見せているだけです。
「見かけの自転周期」、「真の自転周期」という汎用的で本質的な言葉を使うのがもっとも好ましいし、理解しやすい。
元々、恒星日というのは太陽系外の遠い天体(恒星)の動きからとらえたものだが、それは天動説の延長のようなものです。
結局、それは、惑星が太陽の回りを公転し、あるいは、衛星が母星の回りを公転していることによる見かけの自転周期に過ぎない。
一言で言えば、恒星日とは公転周期を含んだ見かけの値ということです。
一般的に、見かけの自転周期を自転周期と呼んでいる。
それが解釈の混乱を生んでいる。
しかし、科学的に言えば、太陽日のような純粋な自転周期(真の自転周期)を自転周期と呼ぶべきです。
衛星の自転周期と公転周期が同期するという言い方をする。
これも衛星とその母星を外から見た時に、同期しているように見えるからです。
つまり、見かけの自転周期です。
同期している時には、実際には全く自転していない。
自転していないのに、同期していると言われると、自転していると思い込んでしまう。
非常に危険な言い方です。
今後は、「衛星の公転周期と見かけの自転周期が同期する(まったく自転していない)」とはっきりと書くべきです。
恒星日、太陽日という言い方が良くないのは、
それがどんな意味を持っているのか、どんな違いがあるのかがはっきりイメージできないことです。