異なるデータを比較する方法

ゲームのシミュレーションが リアルでない 理由
A reason why the Simulation Game of Putting does not look Real

初速・グリーンスピード・転がる距離が正しいかどうかを確かめる(2012年、日本)


データ

初速

Green Speed

前のめり転がりの長さ

真の転がりの長さ 転がった距離


計測データ(その1)

(回転はほぼかかっていないパット)

※ 2.79m/s ※ 11ft

0.67m

( 0.51m)

5.43m

( 5.59m)

約20ft(6.10m)


計測データ(その2)

(回転を加えたプロのパット) 

※ 2.271m/s ※ 12ft

0.58m

( 0.48m)

5.21m

( 5.31m)

約19ft(5.79m)


計測データ(その2)

(回転を加えない場合を正しい方程式で計算)

0.55m

4.02m

15.00ft(4.57m)


計測データ(その2)

(正しい概算)


15.07ft(4.59m)


PFGP

(間違った解釈)

2.57m/s 8.5ft

0.06m+0.33m=

0.39m

2.6m

9.8ft(2.99m)


PFGP

(正しい方程式で計算)

0.62m

3.65m

14.01ft(4.27m)


PFGP

(正しい概算)


13.1ft(4.07m)

(表) 実際の計測データを使って概算してみるだけでPFGPの計算が間違っていることがすぐ分かる

: 計測値、:計測した値ではない









異なるデータ


(1) Paul Hurrion氏の2つの計測データ
(2) Physics for game programmers(PFGP: 18)のデータ



このデータをどのように比較するのかを考えてみよう。


PFGPの中で、転がり摩擦係数μ=0.065という例で計算している。
これはProbableGolfを参照しているが、大元は「SICENCE AND GOLF  III(p.438)」でグリーンスピード8.5ftのときの計算値です。


しかし、転がり摩擦係数を求める式が間違っているので、<span style="color:blue; font-size:12pt">0.065という値は間違い</span>です。


実際に計測した信頼性のあるデータ(グリーンスピード、実際にパターでパットした任意の初速と転がった距離を同時に測定したもの)というのは、予想外に少ない


PFGPも、他の物理本や教科書と同様に、
実際に計測したデータを使って検証をしていない


それが間違った計算をしていることに気づかなかった最大の理由です。
そのことが以下で明らかになる。

計測データ(その1)から計測データ(その2)の回転を加えないケースを概算





初速とグリーンスピードの比から単純計算で概算してみよう。


計測データ(その1)は回転を加えていないので、
計測データ(その2)も回転を加えない場合の距離を正しい方程式を用いて求めると、4.57mです。


次に、計測データ(その1)から計測データ(その2)の回転を加えないケースを概算してみる。
転がる距離は、大雑把に言って、初速の1.8乗前後に比例し、グリーンスピードに比例するので、

  • 6.1m×(2.271/2.79)^1.8×(12/11)≈4.59m

と概算できる。正しい方程式で求めた4.57mとほぼ同じです。


このことから、この2つの計測データ信憑性が高いことを再認識できる。
この点でも、この2つのデータをロゼッタストーンと呼ぶにふさわしい。
と同時に、転がる距離を求める方程式正しさも裏付けている


計測データ(その1)からPFGPのデータを概算





同様の方法で、PFGPのデータを概算してみよう。


計測データ(その1)よりも初速が遅く(2.57m/s)、グリーンスピードも遅い(8.5ft)ので、

  • 6.1m×(2.57/2.79)^1.8×(8.5/11)≈4.07m



これは正しい方程式で求めた4.27mに近い


前項の概算に比べて誤差が大きいのは、グリーンスピードの差が大きいからです。


以上から、
PFGPの2.99mという計算結果が全くの見当違いであることが分かる。
正確な計算値4.27mに比べて実に30%もの誤差がある。


PFGPの計算は完全に間違い





この2つの概算から分かるのは、



教科書に書かれた解法を信じている人たちは実験で検証をしないまま正しいと信じ切っていることが、このことからも明らかです。

現在・過去すべてのゲーム・シミュレーションは実際のパットの役には立たない





PFGPでは、最初にホップする(空中を飛ぶ)わずか4〜6cmの部分を加え、さらにはロフト角によるバックスピンも計算しているけど(いかにも厳密にシミュレーションしているように見える)、結局、真の転がりになった時の速度が間違っているのが致命的で、計算結果(転がる距離2.99m)は完全に間違っている。


実際のパットより30%も短く計算してしまうようでは、何の役にも立たない


これはPFGPに限った話ではなく、
現在・過去すべてのシミュレーションはシミュレーションとは言えない



ボールの滑り摩擦係数などと言うものは存在しない





今どき、Stimpmeterで測ったグリーンスピードを用いて計算するべきです。


摩擦係数などと言う一見科学的に見える値を用いることで、かえって分かりにくくしているだけです。いかにも正確に計算しているように見えるので、読者は簡単にだまされてしまう


PFGPでは、

  • すべり摩擦係数(coefficient of sliding friction): 0.5
  • 転がり摩擦係数(coefficient of rolling friction): 0.065

という例で計算している。


それでは、転がり摩擦係数が変わった時、つまり、グリーンスピードの違うグリーンでは、滑り摩擦係数はいったいどのように変化すると言うのだろう?


転がり摩擦係数(グリーンスピード)から滑り摩擦係数を求める式などと言うものは世の中に存在しない。グリーンスピードだけでは転がる距離を計算できないことになってしまう。


まったく実用性がない
はっきり言って、役に立たない計算方法です。


転がり摩擦係数の値は昔からいろいろな例が計算されている。
でも、ボールの滑り摩擦係数などというものは、聞いたことがない
誰も測定していないものを使ってどうやって計算しようと言うのだろう。


そもそもボールには滑り摩擦などと言うものは存在しない
滑っているように見えて、<span style="color:red; font-size:12pt">実は滑っていないからです</span>


そして、PFGPに書いてある方程式で、滑り摩擦係数の値をどんなに変えたとしても、真の転がりになった時の速度を現実の値に近づけることはできない
真の転がりになった時の速度を求める従来の式には滑り摩擦係数が含まれないからです。


現実の値に近づける要素が全くない。
そのことが、従来の方程式の決定的な矛盾です。


PFGPの著者自ら実験をしていれば、この矛盾に気づいたはずですなので、そのチャンスを自ら捨ててしまったのは実に残念です。


自ら実験できなくても、Paul Hurrion氏の2つの計測データのような信頼できるデータを使って検証していれば、間違いに気づいたはずです。


たとえ、現実のグリーンが均一ではなく誤差があると言っても、
わずか3m〜4mのような短いパットで30%もの誤差が出るような複雑な物理現象ではない。


現実のパットを計算できない従来の方程式をこれでもまだ信じますか?


2012.03.19

前のめり転がりの比率が13%、これだけでは判断できない





PFGPの計算例で、前のめり転がりの比率は、

  • 0.39/2.99*100 ≈ 13%



従来言われていた10%〜20%という範囲に入るので、これだけを見ると正しそうに見える。
でも、これだけで正しいと判断してはいけない


2012.03.22

転がる距離が初速の1.93乗に比例することも現実離れ





PFGPに書いてある方程式で1mだけ転がるときのボールの初速を求めると、

この2倍の初速(ボールの初速)でパットした時の距離は、

よって、1mのときに比べて、



つまり、転がる距離は、初速の1.93358乗に比例する。
これは現実離れしている。
この点でも、PFGPの方程式が間違っていることを示している。


2つの計測データでも1.7乗〜1.9乗であることが示されているし、
「科学的ゴルフ上達法」(参考文献[1])でも同様の実験結果がある。


距離が長くなるほど2乗に近づく傾向はあるが、
4m程度の短い距離で1.93358乗のように2乗に近い値になるはずがない
短い距離のほうが理想の2乗に近いだろうと考えるのは、実験データを知らない証拠です。


このように、計測データと比べてみれば、すぐにおかしいことに気づく。
計算結果が適切かどうかをまったく検証していないことがこのような分析からも明白です。


PFGPでは、パターのヘッドの速度、反発係数(e=0.78)やロフト角(3deg)まで式の中に入れている。
これほどまで細かく計算していて、複雑なので、逆に、1つ1つの効果が分かりにくくなっている。でも、そういう枝葉の計算はほとんど微妙な差しか生んでいない


本質的には、真の転がりが始まる時の速度の計算、最も肝心な計算が間違っていることが、このような現実離れした計算結果になる最大の理由です。


ゲームにリアルさがないのは当然





そんな間違った計算でいくらシミュレーションしても、たとえゲームの世界であっても、リアルさを伝えることはできない


そのことに早く気づいてほしいものです。


ゲームの映像を見て、ボールの動き方に違和感を覚える
それは、当然です。
こんなに現実と違えば、気づかないほうがおかしい。

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