接地点回りで倒れようとすることで回転が生まれる(2011年、日本)
「玉突きの問題」は、教科書に載っている剛体の定番の問題です。
パッティングも原理的には同じです。
簡単に言えば、最初は滑りながら転がって(実は滑っていない)、比較的すぐに、真の転がりへと移行する。
ここが、Stimpmeterと違う。
教科書的な考え方の矛盾(その1)
たとえば、東京工大 原子核物理学 武藤研究室 講義資料、物理学Aの第12章 剛体の運動(2)や参考文献[9]などに「玉突きの問題」が書いてある。
撃力を加えた直後に(微小時間後)、
\[ {\Large \fbox{ $ \displaystyle{ \begin{align} I_{c}\omega_{0}=&(\color{blue}{h-a})F\\ &h:撃力を加えた高さ\\ &a:ボールの半径\\ &F:撃力\\ &I_{c}:ボールの中心回りの慣性モーメント\\ \end{align} } $ } } \]
で示す角速度ω0で回転を始める、という説明になっている。
h=aの時、つまり真横から突いた時には回転を始めないことを意味する。
玉突き(ビリヤード)では、ビリヤード台の表面は芝とは違って滑りやすいので、横滑りして回転しないというのはもっともらしいので、この式が正しいと普通は考える。
パッティングでは、基本的には真横から打っている。
パターのロフト角は3、4deg程度で、「In search of the Perfect Putt」の解析では1degが理想的と言われている。
ほとんどh=aに等しい。
にもかかわらず、パット直後から回転を始め、
短時間、短い距離で「真の転がり」に達する。
教科書的な考え方では、
ゴルフボールが回転を始めることを説明することができない。
教科書的な考え方のどこが間違っているのか?
一言で言えば、ボールの中心回りの慣性モーメントIC、角速度ω0で考えていることが間違いの原因です。
滑りながら(実は滑っていない)回転している間も、外から見ると普通に回転しているように見えるので、ボールの中心の回りを回転していると考えてしまいますが、そこが間違いの元です。
撃力で発生した並進速度V0からどうやって回転が発生するのかという根本的なメカニズムをまったく考えないで、いきなり中心回りの角速度が発生することがそもそもおかしい。
特に、真横から打った時には回転しないという考え方がもっとも不自然です。
真横を打った場合でも、現実には、回転を始めるからです。
そして、中心からの変位(h-a)が中心回りの角速度を玉に与えると考えること自体が、まさに、非科学的です。
空中に浮かんだ玉に同じように撃力を加えた時に、同じようにトルクが発生するでしょうか?
そんなことはあり得ない。
ビリヤード台の上に接地しているからこそ、角速度が発生するのは、ちょっと考えてみれば誰でも分かる。
しかし、上記の式には、接地という条件が全く考慮されていない。
そこが、最初の矛盾点です。
「滑り摩擦がトルクを発生させる」という考え方の矛盾(その2)
− 滑り摩擦モデル(Skid Model) −
教科書では、滑り摩擦がトルクを発生させる、という「滑り摩擦モデル(Skid Model)」で説明されている。
実にもっともらしい考え方をしているので、簡単にだまされてしまう。
私自身、1982年に、参考文献[1]を読んだ時、だまされて、
それ以来、29年間もだまされ続けていた。
計測データ(その1)を使って(h=aと仮定して)、
滑っている長さ、「真の転がり」の長さ、そして全体の長さを
教科書の式で計算してみると以下のようになる。
\[ {\Large \fbox{ $ \displaystyle{ \begin{align} \\ \\ &滑っている長さL_{0}:h=aのとき\\ L_{0}=&\frac{V_{t}+V_{0}}{2}t\\ =&\frac{12}{49g\mu}V_{0}^{\hspace{3pt}2}\\ =&1.667ft(計測値)\\ \therefore\mu\approx&\color{purple}{0.383}\\ t\approx&\color{purple}{0.21238}[s]\\ \\ &「真の転がり」の長さL_{1}\\ L_{1}=&G_{S}\left\{{\frac{V_{t}}{V_{S}}}\right\}^{2}=G_{S}\left\{{\frac{V_{0}}{V_{S}}}\right\}^{2}\color{blue}{\left\{{\frac{5}{7}}\right\}^{2}}\\ =&\color{blue}{13.05ft}\\ \\ &全体の長さL:\\ L=&L_{0}+L_{1}=\color{blue}{14.717ft\ll}約20ft(計測値)\\\\ ただし&\\ V_{t}=&\frac{5h}{7a}\frac{J}{M}=\frac{5h}{7a}V_{0}\\ =&\color{blue}{\frac{5}{7}}V_{0}:h=aのとき\\ t=&\pm\frac{5h-7a}{7ga\mu}\frac{J}{M}=\pm\frac{5h-7a}{7ga\mu}V_{0}\\ =&\frac{2}{7g\mu}V_{0}:h=aのとき\\ &V_{0}=\frac{J}{M}: 初速(2.79m/s)\\ &V_{t}: 滑らなくなった時の速度\\ &V_{S}: Stimpmeterの初速(1.83m/s)\\ &t: 滑らなくなった時の時間\\ &J: 撃力の力積\\ &M: ボールの質量\\ &\mu:滑り摩擦係数\\ &G_{S}:グリーンスピード(11ft)\\ \end{align} } $ } } \]
計測値1.667ftを満たすためには、
- 滑り摩擦係数μ≈ 0.383
- t≈ 0.21238[s]
となる。
もっともらしい値なので、これだけで判断すると、だまされてしまう。
計測データ(その3)のグラフのように、並進速度と角速度の変化(傾き)を見ると、滑り摩擦が働いているように錯覚する。
ところが、この解法の決定的な間違い、欠陥は、
- Vt=5/7V0
の係数5/7です。
この値で、「真の転がり」の長さを計算すると約13ft、
全体の長さは14.717ftとなり、
計測された約20ftとかけ離れた値になってしまう。
実に、26%も短い値です。
教科書では、滑らなくなった速度Vtを求めて終わりになっている。
そこが、だましのテクニックです。
その速度Vtが正しいかどうかをまったく検証していない。
ビリヤード台があまりにも狭くて、止まるまでの距離を検証できなかった、
ということが1つの言い訳になるかもしれない。
たとえそうであったとしても、
すべてを矛盾なく説明できなければ、それは正しい(科学)とは言えない。
測定に誤差は多少は含まれますが、この計算結果を見て、
測定誤差だと都合のいい解釈をできるようなレベルではない。
26%もの誤差などというものが、物理現象の中に存在するはずもない。
こんな単純な物理現象の計測データを解釈できないという事実は、解法自体が間違っていることを自ら証明している。
滑り摩擦がトルクを発生するなどということは全くの絵空事です。
実験で全く検証していない証拠ですね。
机上の空論と言っていい。
結局、どうやって回転が起きるのかという根本的な原理を無視して、もっともらしい式を立てている。まったく意味のない解法です。
教科書に載っているから正しいと思い込んでいる。
思い込まされている。
そのことを、よく考え直してみる必要があります。
その矛盾の意味
教科書の答え(h=aのとき)、
- Vt=5/7V0≈0.714V0
全くエネルギーロスなく「真の転がり」になったと仮定すると、
- Vt=√(5/7)V0≈ 0.845V0
このわずかな係数の違いが大きな意味を持つ。
平方根の有る無しは、数学的に言っても、物理学的に言っても、
決定的な違いです。
この値、√(5/7)V0を用いて概算した時の「真の転がり」の長さが、
<span style="color:red; font-size:12pt">ほぼ計測値と一致</span>するという事実を考えれば、どこに矛盾があるのかすぐに気づくはずです。
滑り摩擦でトルクが発生して、滑っている間にもエネルギーを失う、
という考え方自体が間違っていることを示唆している。
教科書のように滑り摩擦係数を導入すると、
具体的にどんな値なのかが不明なことがネックになる。
滑っている距離から滑り摩擦係数を決めることも無意味です。
滑らなくなった時の速度Vt自体が間違っているのに、それを元にして滑り摩擦係数を求めても意味がないからです。
滑っているように見えるから、滑り摩擦が働いている、
という短絡的な(非科学的な)発想が、すべての誤りの始まりだったと言っていい。
そして、Vt=5/7V0の意味を論理的に考えれば、<span style="color:blue; font-size:12pt">「滑り摩擦モデル」が出来の悪い作り話</span>であることが証明される。こんなナンセンスなことを信じていたとは!!
正しい考え方(2011〜12年、日本)(世界初!!)
− はずみ車モデル(Flywheel Model) −
ボールの真横(h=a)を打った時であっても、
接地面の抵抗があるために、言ってみれば、足をつまづいたときのように、
ボール全体が接地点回りに倒れて行くことで、回転が始まる。
それは、慣性の法則に従うため、運動量の保存則、エネルギーの保存則が成り立つ。
前のめり転がりは、
「はずみ車モデル(Flywheel Model)」として表わされる。
これが正しい「転がりの基本原理」です。
回転するのは結果であって原因ではない、ということです。
このことは、斜面での回転モーメントでも説明するように、
「倒れることの連続が転がり」という基本概念(参考資料[16])の通りです。
回転が発生する本当のメカニズム(原理)は、<span style="color:red; font-size:12pt">接地点回りの慣性モーメントI<sub>p</sub></span>が関与しているということです。
接地点回りのモーメントなので、ボールの真横(h=a)を打った時であっても、まったく問題なく回転が始まる。
当然と言えば、当然ですね。
教科書的な考え方はまったくの非科学
ボールの真横(h=a)を打った時であっても、
こすり上げるように打てば、回転を加えることができる。
回転の加え方は、中心からの変位(h-a)だけではない。
あらゆる点で、教科書の解法には穴(欠陥)がある。
結局、真横(h=a)だから回転せずに横滑りをすることも、
そして、滑り摩擦がトルクを与えることで回転を生むということも
まったくの非科学であることがこれでよく分かっていただけたでしょう。
この玉突き問題は、何百年?も複数の教科書や物理本に載っていて、誰も疑問に思わず、盲目的な信仰となっているので、この正しい考え方が広く認められるようになるまで、さらに長い年月がかかるかもしれません。
こういう考え方を書くと、必ず、批判する人がいますが、論理的に考えれば、そういう批判をすることはできないはずです。
もし批判をするのなら、教科書的な解法を用いて、2つの計測データを解釈した上で、論理的に説明することを期待しています。
もしかすると、その考え方のほうに理があるかもしれないので、いろいろな意見を聞くことは大切です。
批判のための批判ではなく、建設的な議論をしたいものです。
これを機会に自分の頭で考え直してみましょう。