並進の運動量が角運動量に徐々に転換する珍しいケース(2011年、日本)
接地点回りで倒れることで回転が生まれる
回転を加えず、ボールの真横をヒットした直後に並進速度V0だけのケースでは、最初は回転していない。
ボールは、足をつまずくのと同じ原理で、「前のめり転がり」になって、接地点回りで倒れようとする。
回転(正回転、バックスピン)を加えた場合でも全く同じです。
加えた回転も、接地点回りの回転として作用するからです。
回転を加えているからと言って、
ボールの中心回りで回転すると考えるのは間違いです。
つまり、
パットした瞬間のボールの中心回りの回転はゼロということを意味する。
回転を加えた場合でも、ボールの中心回りの運動量は最初はゼロということです。
結局、並進の初速と加えた回転の合計が接地点回りの見かけ上の角速度として作用する。
接地点の回りで倒れようとする運動は、慣性の法則に従って、
(V0+γ0・V0)が、見かけ上、角速度ω0として作用する。
接地点回りで倒れるという発想が、この問題を解く鍵です。
倒れようとする角速度は、中心回りの角速度と一致することが分かっているので、ω0= (V0+γ0・V0)/rです。
ただし、それはω0という角速度でボールの中心回りで回転しているということではない。
そこがちょっと分かりにくいかもしれないが、
その一瞬だけ、ω0という角速度で倒れる能力を持っているということです。
γ0=−1というバックスピンの意味
ここで注意しなければいけないのは、
並進の速度は、V0からV1まで変化することです。
決して、V0+γ0・V0から始まるのではない。
それは、距離を計算する時に重要です。
加えた回転γ0・V0は、あくまでも、接地点回りで倒れることを助けて、見かけの角速度を増す(減速する)だけだからです。
そして、γ0=−1というバックスピンを加えた時のことを考えてみればその意味が分かる。
γ0=−1ということは、並進のエネルギーと等価なエネルギーの回転を加えている、ということを意味する。
それは、つり合っているので、前進も後退もしない、と考えたくなる。
でも、それは間違いです。
パットした瞬間にエネルギー的につり合って前進も後退もしないと考えるのは都合の良い解釈です。
並進の初速V0は、接地点回りの角速度として回転を始めるけれども、
回転への転換が完全に終わるには時間と距離が必要になる。
すべて回転に転換した時に初めて、加えた回転(−V0)とつり合うことができる。決して、直進の速度と、回転が直接つり合う訳ではない。
この点は、非常に理解しづらいけれども、
距離を計算する方程式を求めてみれば、そう考えないほうがおかしいことに気づく。
運動量の保存則・角運動量の保存則という狭い意味での理解
運動量の保存則は、教科書の定番の衝突などのように、
並進の運動量の中で保存される、あるいは、
角運動量の中で保存されるという単純なケースしか出てこない。
そういう問題しかないと、思い込んでいる節がある。
非常に狭い意味での理解しかなかった。
「前のめり転がり」のような並進の運動量の一部が徐々に角運動量に変化するというような問題を今まで見たことがない。
おそらく、こういうケースを説明している教科書や物理本は一冊もない。
だから、このような現象(運動)があることに誰も気づいていないし、
そういう発想すらない。
私自身、1982年から29年もの間、気づかなかった。
定番の「玉突きの問題」の解き方が間違っていること、そして、間違っていることにさえまったく気づかないこと、そのこと自体がそれを証明している。
「玉突きの問題」も実は、「運動量の保存則」の問題なので、
それを「撃力」の問題としてとらえようとしたこと自体が根本的に間違いだった。
「玉突きの問題」の間違った解き方を教え続けてきたことが、
正しい発想を阻害していたとも言えます。
この負のスパイラルを断ち切って、
「前のめり転がり」のメカニズムを、今回(2011年)、世界で初めて解明できたことは、本当にうれしい。
並進の運動量から角運動量への連続的な転換
(運動量の保存則に従いつつ)
接地点回りの角運動量Ipωは、
最初は、Ipω0という状態が微小時間dtだけ続く。
その連続によって、並進の運動エネルギーの一部が回転の運動エネルギーに転換して行く。
並進速度Vが減って行くにつれて、見かけ上の角速度ωも減って行くので、倒れようとする能力はだんだん落ちて行く。
「前のめり転がり」の間に発生する接地点回りの角運動量は微小時間ごとに蓄積して行き、それを合計したものが、
最終的に、「真の転がり」になった時のボール中心回りの角運動量になる、
というのが「前のめり転がり」で回転が生じる基本原理です。
それを方程式化することで、「前のめり転がり」の時間と長さが正確に求められる。